相変わらずです

              なんちゃってファンタジー“鳥籠の少年”続編
 


この大陸の中では、
物資も文明も最も豊かだとされながら、
しばらくほど とある内乱に大きく揺れていて。
そんな国情であること、対外的には隠していた王宮だったが、
何かを隠すためには、ただ外へ漏らさぬだけじゃあない、
外から覗かれぬようにということへも警戒せねばならずで。
国外どころか首城下周縁以上の遠隔地にも、
気配さえ届かなかったほどの機密ぶりは、
首謀者が人とならぬ存在だったからこその徹底を敷けたものの。
その元凶も滅んでの、
元通りの豊かで安泰な国へと戻ったところが、

 『このところ、外交がなかった土地からも、
  様子伺いにという文やら使者やらが訪のうているそうでな。』

 『それは凄いですねぇ。』

もしかしたら、あの、女王に取り憑いてた魔物の野郎が、
大きな結界を張って大陸の存在自体を封じてやがったのかもしれぬ。
それが解けての、
おや、あんなところに国なんてあったんだと
気づき直されてるって順番かもな、なんて。
お暢気なんだか大仰なんだか、
他所の国の人からすれば…間違いなく奇っ怪な感慨を零したのが、
王城キングダムの首城に、神官らの相談役として逗留中の葉柱で。
信仰というものが思想や哲学ではなく、
まだちょっとは不思議な力をもつ国でもあることから、
地脈の力や精霊の存在に協力を仰ぐ術に長けた彼なのを
まだまだご指導いただかねばと依然として頼られておいで。
とはいえ、
その辺りはどう説いたとて
他所国の方々に理解されないのは必至だし、

 『この国の豊かさとやらも、
  そろそろ
  人の創意工夫や機巧
(からくり)
  お陰様になりつつあるんだがな。』

カメちゃんこと、霊鳥スノウ・ハミングさんを仲立ちにした
言霊を飛ばす“伝信”で、
近況報告をしたついでのお喋りでそんな言いようをした葉柱であり。
こんな形で途轍もない遠距離同士で会話出来ることからして、
思えば“神憑り”とされている特別なこと。
術や咒の心得がない普通一般の人には
早馬を駆けさせて手紙を届けるか、
行商の旅人が副業で始めた飛脚に頼るか。
どうしても至急でという知らせなら、
戦さの折に用いる方法、
光の信号を飛ばして読み取り、次々にリレーする手段もなくはないが、
前以ての中継地を中間のところどころへ設けねばならないと来て。

 『その工夫を発展させれば、
  この会話だとて、術なぞ使わずとも可能になることかも知れぬ。』

 『そんな技術まで生まれるのですか?』

それは商いなどへは大きに助かりますよねと、
凄い凄いを連呼する無邪気なセナだったので、

 『いやまあ、それこそ物凄く後世の話になろうと思いはするがな。』

すぐにも、しかも語った自分こそが
発明の目処を立てたような勢いでの応じだったのへは、
さすがに鼻白んでしまった葉柱だったけれど。

  かように、
  外の国からは まだまだ
  “不思議な”若しくは“神秘の”力や能力が
  現実の生活に顔を覗かせている国でもあるものだから。

自然のままにある大地からの生気を、疎かにしない心掛けとか、
その延長で、やたらと土地をいじって地形を変えない、
暮らしようも極端には変えたがらぬ気風とか。
平和で牧歌的と言やあ聞こえはいいが、
結界や精霊の守りを当たり前のこととし、
無自覚のうちにも頼るあまり、

 ―― もしかしたらば
    思わぬ“油断”も多々あるのかも知れぬと。

いかにも慎重なお言いようをしていたのが、
選りにも選って
今やこの国最強かも知れぬとまで言われておいでの黒導師、
蛭魔妖一さんだったりするのだから、世の中ってのは判らない。

 『何だって?』

ああいや、あの、その…。(焦)
つか、回想シーンから睨んでこない。
この国に今も健在な、地脈や精霊との交流と咒術の力に、
最も通じておりながら、
されど、それだからこそ危ういとも思っておいでの彼であり。

 『大国の人海戦術は侮れぬぞ?
  忠誠か それとも家族への手厚い保証からか、
  身を捨ててでもという執念で励まれたなら。
  兵士の一個師団がこなす働きを
  何百人もかかってでもじゃああれ、
  ずぶの素人があっと言う間に
  完遂させる場合があるというしの。』

手練れでなければ出来ぬこと、
危険であっても恐れずに、
寝ずの仕事を次々に、寄ってたかってこなすのだ。
しかも、
身ごなしや何やが冗談抜きに“素人”なのだから、
集合にも解散後にも
要らぬ警戒を集めることもなかろうと来ては、
確かに手ごわい。

 それと、もう一点、用心せねばならぬのが。

この国ならではの“結界”防御は、
意外なことに、凡人であるほど利かぬという盲点がある。
暗示という咒を用いれば、
作為をもって注意を寄せさせぬことも可能になるが、
何かしらへの強い信念こそあれ、邪心は持たない存在は、
疑う事なく見たものを受け入れる。
精霊や地霊を知らねば、影響も薄いと来て、

 『辺境にいるお前なんぞは、特に注意を払わにゃならん。』

まあ、霊力は史上最強なのだから、
信仰には縁がない奴でも、
幻影でなぶって摘まんでポイが可能だろうがな、と。
余計なお世話の、物騒なあおりも下さったのじゃあるけれど。

 「あ、セナ様、ごきげんよう。」
 「こんにちはvv」

収穫の秋を迎えた南領の里は、
赤や黄色、錦に染まった木々に縁取られたあちこちで、
様々な作物の収穫に忙しく。
それと同時、奉納のお祭りも間近。
里のあちこちを忙しそうにする人の行き来も多く。
昔からおいでの方々からは子供扱いのまんまだが、
一気に増えた若い顔触れからは、
恭しい態度を取られているのがいまだにくすぐったい。
帝都から戻って来たおり、
セナの身を守れと遣わされた護衛の皆さんが
そのまま居着いて働き手となっている関係から。
セナの素性は、

  王族の眷属にして、神官としての修行を収めた、
  この南端の地の護りの司祭

ということにされており。
それで丁寧な態度を取られているのが判りはするが、

 「きゅ〜う?」
 「うん…まだちょっと恥ずかしいかな。」

平素はお耳の大きいパピヨンの子犬という姿に
変化(へんげ)しているカメちゃんが。
荷車の轍の跡もくっきりと刻まれた里の小道を行く主人へ、
ぬくぬくと抱えられたまんまの懐ろから声を掛け。
それへ“たはは…”と苦笑を零すセナだというのも、
実は相変わらずだったりし。
仰々しい扱いはしないでと、
帝都を出るところからして恐縮しまくりだった小さな公主様。
だがだが、このお人がどれほどの働きで王国を助けたか、
大臣各位ほど重々御存知で、
よっておろそかな扱いなんて以っての外だと
言い聞かされてる面々でもあったため。
相変わらずに丁重な敬語なぞ使われているままだし、
そしてそれが面映ゆいセナでもあるらしいものの。
恥ずかしそうに肩をすくめたその稚(いとけな)い表情が、

  ―― ひくり、と

何に弾かれたか、ものの一瞬で掻き消えてしまう。
相前後して、彼の立つ道の上をサッとよぎった陰があり。
モズかヒタキか、
キチィチィと、澄んだ空気を引っ掻くような、
鋭いお声で鳴いて飛び立ったその気配に、
反応したようにも見えたものの、

 「…カメちゃん。」
 「キュウ。」

やや堅い声にて囁いたご主人だったのへ、
小さな子犬も先程とは明らかに異なる声音でお返事を返し。
懐ろの中からぱあっと目映い光が立ったそのまま、
セナごと輪郭が掻き消されてしまったのは……







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